Chapter 1: ホルモンとは {#chapter-1}

1.1 語源と歴史

「ホルモン(ほるもん)」という言葉の語源については2つの有力な説が存在し、現在も議論が続いている。

説1(「放る物(ほるもん)」説):
大阪方言で「捨てるもの」または「放り出すもの」を指す。食肉解体時に廃棄されていた内臓を「放るもん(捨てるもの)」と呼んでいたことに由来するとされる。これが転じて焼いて食べる内臓肉を指すようになったという説で、庶民文化に根ざした解釈として広く知られる。

説2(ドイツ語"Hormon"由来説):
生物学用語の「ホルモン(Hormon)」はギリシャ語"hormao(刺激する・活性化する)"が語源であり、体内器官が産生する生理活性物質を指す。ドイツ医学が普及した戦前の日本で、内臓には滋養強壮効果があるとして「ホルモン(生理活性物質)を含む肉」という意味で用いられた可能性がある。

歴史的背景: 日本における内臓食の文化は、戦後の食糧難の時代に在日朝鮮・韓国人コミュニティが廃棄されていた内臓を活用したことで広まったとされる。現在では「もつ焼き」「ホルモン焼き」として立派な食文化として確立している。韓国語では「곱창(コプチャン:小腸)」「대창(テチャン:大腸)」と部位で呼び分けるのが一般的。

1.2 内臓肉の栄養価

内臓肉は「捨てるもの」どころか、一般の筋肉肉よりも高密度の栄養素を含む場合が多い。

主要内臓の栄養素比較(可食部100g当たり):

部位 タンパク質 脂質 鉄分 ビタミンB12 亜鉛 コラーゲン
牛レバー 19.6g 3.7g 4.0mg 52.8μg 3.8mg 少
牛ハツ(心臓) 16.5g 7.6g 3.2mg 13.3μg 2.5mg 少
牛テッチャン(大腸) 9.3g 13.0g 0.5mg 0.8μg 1.8mg 多(11g)
牛ミノ(胃) 11.1g 3.4g 0.9mg 0.7μg 2.0mg 多(10g)
牛サーロイン(比較) 17.1g 17.4g 1.0mg 1.7μg 3.5mg 少
推奨摂取量(成人) 60-65g — 6.5-10.5mg 2.4μg 8-11mg —

注目栄養素の解説:

  • 鉄分(ヘム鉄): 牛レバーの鉄分4.0mg/100gは鉄欠乏性貧血の予防・改善に有効。ヘム鉄は非ヘム鉄(植物性)の2-5倍吸収率が高い
  • ビタミンB12: レバーの52.8μgは1日の推奨量(2.4μg)の約22倍。神経機能・赤血球生成に必須
  • コラーゲン(1型・3型): 腸・胃の結合組織に豊富。加熱によりゼラチンに変換され、関節・肌への効果が期待される(ただし消化後はアミノ酸に分解される)

1.3 ホルモンの市場規模と流通

日本の食肉市場においてホルモン(内臓肉)は独立したカテゴリを形成しており、2022年の国内消費量は推定約15万トン(牛・豚合計)。専門の「もつ卸業者」が存在し、食肉センターから直接仕入れる構造となっている。